誰しもストレスとは無縁でいられないもの。なんでも我慢すればいいというわけではないにせよ、ストレスにうまく対処する力を子どもに育んでもらうにはどうしたらいいのでしょう?精神科医の藤野智哉先生に、これからの時代に必要な力「レジリエンス」についてお話しいただきました。
――子どもにとって大切な力としてレジリエンスという言葉をよく耳にします。この言葉の説明からお願いできますか?
元々「復元力」を意味する言葉で、心理学で使う時は、ストレスを受けた時折れずに戻ってくるしなやかな適応の能力を指します。木でたとえると、風になびいて戻る力。レジリエンスというと、個人内のものに視点が向くことが多いのですが実はそうではなく、環境因子も大事になってくる考え方です。
昔は熱血の人たちが「簡単に折れるな!」と言ってたわけじゃないですか。当時は強さというと木の幹の太さだけを指していたけど今はそうではなくて、上手な受け流し方や環境の要因に目が向くようになったと思います。「ただ頑張るしかない」という根性の問題だったところを、そうではないことが分かってきたという変化はありますよね。
――レジリエンスが高い子と低い子にはどのような違いがありますか?
レジリエンスの高い子は、自分の有能感や効力感も高いと言われています。それは楽観性や将来の見通しにもつながってきます。アーロンベックはかつて、うつ病の認知として、将来がうまくいくわけないと悲観的に捉える傾向などを挙げましたが、レジリエンスの高さは楽観性と大きく関わると言われています。先の見通しが立てにくく不安になりやすいこの時代、一層楽観性が求められ、レジリエンスの重要性も増している気がします。
――レジリエンスは先天的なものですか?
先天的な要素もありますが、後天的に育んでいける部分も当然あります。折れやすかった木が、風を受けるうちにだんだん「これは枝分かれした方が風を受け流せるぞ」と気がついて、枝分かれするように再構成されていくのと一緒です。ストレスにぶつかって折れそうになる経験を通して、どうすればストレスを軽減していくことができるのかを学び、今後に活かしていくことができます。
――自己肯定感とレジリエンスの関係性を教えていただけますか?
自己肯定感、効力感や有能感は「なんとかなる」「なんとかできる」という感覚につながります。把握可能感や処理可能感にもつながっていて、先の見通しが比較的明るくなりやすい。今はちょっとストレスがかかっていてきついけれど、この後きっと改善していくに違いない。そう思うと心が折れずに持ちこたえられるわけですよね。そういったところで、両者は深く関わってるものだと思います。
アメリカ心理学会が、レジリエンスを育むための10個の要因を挙げていて、たとえば自分に対してポジティブな認知を持つこと、希望に満ちた見方を持つこと、自分自身を大切にすることなどが含まれています。これは自己肯定感とも重なる部分が非常に多いですよね。レジリエンスを高めていくことと、自己肯定感を高めることは大きなつながりがあるわけです。
――子どもの自己肯定感を高めるために、保護者はどんなことができますか?
家族として重要なのは、共同体としての問題解決です。ウォルシュという学者は、逆境をひとりの問題ではなく家族の共通の問題として解決していくプロセスが家族という集団としてのレジリエンスを育むと言っています。だから、「あなたに何かあったらもちろん一緒に考える準備がある」ということを伝えていくことが重要で、この尊重される感覚は自己肯定感を育むためにも役立ちます。子どもたちはまだまだ世界が狭いのでひとりでは考えつかないことがたくさんありますが、親と一緒に考えることで、「そういう方法もあったのか」と学んでいくことにつながりますし、何か困った時絶対に見捨てられないという、最初の安全基地の考え方ともつながってきます。
――レジリエンスや自己肯定感を高めるために逆効果なのはどんな行動ですか?
子どもを理不尽に叱る、両親の不仲など、逆効果となるものはたくさんあります。レジリエンスを育むためには安心・安全を与える、要はストレスを取り除いて手伝ってあげたり物事を建設的に解決に向けてやっていくことが大事なので、そうじゃないものは逆効果ですね。
――子どもが自信を失った時、もしくは挑戦したがらなくなった時には、どのようなサポート方法が効果的ですか?
ひとつは成功体験を積ませてあげるために、小さくて達成しやすい目標を与えることですね。子どもは極端に高いところに目標をおきがちですが、すでにできていることに目を向けさせてあげることも必要です。「かけっこでは勝てなかったけど、あんなに頑張って逆上がりできるようになったじゃない」と言ったように、もうできてることにも目を向けさせる。そして「逆上がりだっていっぱい練習してできるようになったのだから、かけっこだって練習を続ければできるようになるかもしれない」と希望が持てるとなお良いです。
要は、すでに持っている資源からフォーカスしてくことが大切です。
――家族以外での集団生活の経験も自己肯定感につなげられますか?
他の人とかかわって、感情共有を経験したりいい関係を作ったりできれば、周りの人たちは敵ではなく助けてくれるという安心感にもつながりますし、「これからうまくやっていけそう」という感覚にもつながります。人とかかわると、当然ストレスも生まれるわけですが、「ストレスを自分で解決したぞ」という成功体験もその後の人生に役立ってきます。
あと、集団生活で大事なのが境界線です。バウンダリーとも呼ばれますが、人間関係ではいろんな人が侵入してきてストレスになりえます。そういうところでちゃんと線を引くのは、自分を守る練習になります。侵略されない、搾取されない。自分には守る価値があって、尊重される価値がある。同様に他者にも価値があり、他者の境界線も尊重する必要がある。そういった考え方を身につける意味でも大切です。
――年齢別の育て方、支援方法というものはありますか? 乳幼児から未就学児、学童期の2つに分けてお話いただけることがあればお願いいたします。
0歳からの乳幼児は基本的信頼感やアタッチメント形成を育む時期なので、安心感を与えてあげられることはもちろん重要です。でも、過度に何かをしなきゃと焦る必要はなく、普通に愛情を持って養育をしていれば大丈夫です。
学童期、特に小学校の高学年になってくると、ギャングエイジと言って、友だちとの社会を作り始めたり、仲間内で活動し始めたりして、親から離れる練習を始める時期でもあります。そこで保護者はつい介入したくなるわけですが、親離れのためにも必要なことなので、そこをあたたかく見守ることですよね。子どもが困った時に助けてあげる準備だけしておくのが大事ですね。コミュニティー内での活動も小さな社会なので、そこでの成功体験が自分の有能感や自尊心につながります。
――ギャングエイジという言葉を初めて聞きました。もう少し詳しく教えていただけますか?
9歳から12歳ぐらいになると、親から自立をしはじめる時期に差し掛かります。その時期に、友人たちと一緒に活動し遊びを共有するグループを作っていろんなルールを決めたりチャレンジしたりするようになります。さらにもう少し年齢が上になると、今度はチャムグループと言って共通言語を重視するグループを作るようになります。たとえば好きな漫画のキャラクターやそのセリフなどの話題を通し信頼を深めあう女の子同士のグループがイメージしやすいでしょうか?こういう時期に親は悲しさや寂しさを感じるものですね。
――それをちゃんと理解しておくと、親の方も適切なコミュニケーションを取れそうですよね。
反抗期やギャングエイジの存在を知っていると、過干渉を防ぐことにはなるかなと思います。「今はそういう年頃だから仕方ないか」と思って、見守ることが大切なこともあります。
――介入せず見守ることもなかなかむずかしいと思いますが、ぐっとこらえる必要がありますね。
介入がすべてだめなわけではなく、質や程度にもよりますよね。子どもが求めていない場合でも、どうしても介入必須なことがあるじゃないですか。ただそこは見極めがむずかしいし、過干渉にならないことがむずかしいですね。親というものはつい過干渉になるものですから。12歳くらいだと、もう子どももひとりの人間ですからね。それを忘れないことじゃないでしょうか。
――保護者はそれぞれの子どもの特性を見極めて、それに応じてサポートしていくべきだと思うのですが、兄弟姉妹がいる場合なかなかひとりひとりに対応するのがむずかしいことのように思います。藤野先生のご意見を伺えますか?
パーソナライズできるならそれに越したことはないと思います。基本的には兄弟だろうと 子どもだろうとひとりの人で、その人とどう接するかと考えるので、できればそれに越したことがない。ただ、それが実際にできるかどうかは別ですし、できないこともあるとは思います。
――たとえば兄弟喧嘩を仲裁する時なんかは、個別に対応していくのがむずかしいこともあると思って……。
そうですよね。喧嘩の最中に「今どっちがどうしてどうなったの?」と聞いて双方の言い分を擦り合わせて両方が満足のいく落とし所を見つける、なんて理想通りいくわけがありません。ただその時は無理でも後から、「じゃああの時あなたは何を考えていたの?」と聞いたり、ふたりに話し合わせたり、その時に間に入ってもいいと思います。なかなかむずかしいのですが、そうするのが理想ではありますよね。
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