「新築に引っ越したら子どもが咳き込むようになった」「家にいると湿疹や頭痛が続く」などのお悩みを持つ子育て家庭が少なくないようです。その原因のひとつが、住まいの空気を汚す「シックハウス症候群」です。
特に乳幼児や小さな子どもは、大人よりも化学物質の影響を受けやすく、アレルギーや体調不良を引き起こすリスクがあるといわれています。
今回の記事では、シックハウス症候群の原因や子どもへの影響、健康的な家づくり・リフォームのポイント、賃貸住宅でできる対策などについてご紹介します。
これから新築・注文住宅・リフォームを考えている方、住環境を見直したい方はぜひ参考にしてください。子どもの健やかな成長を守る家づくりのヒントが見つかるかもしれません。
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シックハウス症候群とは、建材や家具、接着剤、壁紙などから発生する化学物質によって室内の空気が汚染され、それにさらされることで頭痛、吐き気、めまい、アレルギー症状などさまざまな体調不良が引き起こされる状態をいいます。
主な原因となるのは、ホルムアルデヒドやトルエン、キシレンといった揮発性有機化合物(VOC)といわれています。これらは特に新築住宅やリフォーム直後の住まい、また新品の家具から多く放散されることがあります。
子どもは体が小さく、呼吸量が体重に対して多いため、大人よりもこうした化学物質の影響を受けやすいのが特徴です。そのため、わずかな空気汚染であっても、咳や目のかゆみ、湿疹などの症状が出やすくなるようです。
また、シックハウス症候群は「新築の家だけの問題」と思われがちですが、中古住宅のリフォーム後や、家具・内装材を新調した際にも発生する可能性があります。見た目には分かりにくい空気の質の問題だからこそ、家づくりや住まい選びの段階でしっかりと対策を講じることが大切です。
シックハウス症候群の影響は、大人よりも体の小さい子どもに強く表れることがあります。しかも、その症状は風邪やアレルギーと見分けがつきにくく、気づかないうちに長引いてしまうことも少なくないようです。
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シックハウス症候群の代表的な症状として、咳やゼーゼー(喘鳴)、くしゃみ、目や鼻のかゆみ、頭痛、倦怠感、めまいなどがあります。これらは一見すると風邪や花粉症、疲れなどと間違われやすく、すぐに住環境の問題とは気づかれないことが多いのが特徴です。
また、室内の空気の質が悪いと、これらの症状が慢性的に続くケースもあるといわれています。
外出時や保育園では元気なのに、家に帰ると咳や頭痛がひどくなるという場合は、シックハウス症候群の可能性を疑う必要があります。
室内に漂う化学物質やホコリ、カビなどが原因となり、家にいるときだけ体調が悪化するパターンです。こうした場合は、住まいの空気環境を見直すことが重要なポイントです。
成長期の子どもは、呼吸器や免疫機能が未発達で、化学物質の影響を強く受けやすいとされています。さらに、長期にわたり汚染された空気を吸い続けることで、アレルギーやぜんそくといった慢性的な健康リスクを抱える可能性もあるようです。
だからこそ、家づくりや住まい選びの段階から、空気環境に配慮した対策が重要です。
出典:「シックハウス症候群・化学物質過敏症について」/熊本市
シックハウス症候群を防ぐためには、家の見た目やデザインだけでなく、使われる素材や家具の選び方にも気を配る必要があります。特に子どもの健康を守る家づくりでは、空気を汚さない建材・内装材選びがとても重要です。
ここからは、子育て家庭が注意すべき住宅のポイントについて詳しく見てみましょう。
住宅を建てる際は、ホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)を含まない自然素材の建材や塗料を選びましょう。例えば、珪藻土や漆喰、無垢材などは化学物質の放散が少なく、室内空気の質を守ります。塗料や接着剤も、天然成分ベースのものを選ぶとより安心でしょう。
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床材には接着剤を多く使う合板フローリングではなく、一本の木から切り出した無垢材がおすすめです。無垢材は化学物質の発生が少なく、調湿性があるため、室内の湿度を快適に保つ効果も期待できます。見た目や肌触りが優しいのも、子育て家庭に人気の理由といわれています。
壁紙を選ぶ際は、ビニールクロスではなく紙クロスを選び、貼り付けに使う糊も自然素材のものを選ぶと安心です。紙クロスは通気性が良く、化学物質の放散が少ないため、室内空気を清潔に保ちやすくなるでしょう。
さらに、自然素材の糊は施工後のにおいや化学物質の心配がほとんどありません。
家具やカーテン選びにも、防炎・防虫加工などに使われる化学物質が含まれていないか確認しましょう。
特に新しい家具やカーテンは、時間の経過とともに有害物質を放散することがあるため、購入時の素材表示をしっかりチェックしましょう。天然素材の家具やオーガニックコットンのカーテンなど、安心できる製品を選ぶのがおすすめです。
シックハウス症候群を防ぐ家づくりには、デザインや間取りだけでなく設計段階からの対策が欠かせません。建材の選び方や換気の工夫次第で、住まいの空気の質は大きく変わるでしょう。
家づくりやリフォームでできるシックハウス対策をご紹介します。
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家づくりの初期段階で、しっかりとした換気計画を立て、化学物質を含まない建材を選ぶことが重要です。図面の段階から窓の位置や換気扇の配置を検討し、空気がよどまない設計にすることでリスクを減らすことができるでしょう。建材も無垢材や自然素材のものを積極的に採用しましょう。
「F☆☆☆☆(フォースター)」とは、建材や家具などに使われるホルムアルデヒドの発散量を表す等級のことをいいます。使用する建材や塗料は、「F☆☆☆☆(フォースター)」表示があるものを選ぶと安心です。
「F☆☆☆☆(フォースター)」は国が定めた安全基準で、内装材として使用できる化学物質のレベルが最も低い製品に付けられています。カタログや見積もりの段階でしっかり確認するといいでしょう。
新築や大規模リフォームの場合は、24時間換気システムの設置がおすすめです。中でも、給気と排気を機械で制御する「第1種換気」は、常にきれいな空気を取り込み、汚れた空気を排出できるため理想的です。機械換気により、気密性が高い現代の住宅でも空気の流れを確保できます。
工事が終わったあとは、すぐに住み始めず、しばらくの間しっかり換気を行う期間を設けることも重要な対策のひとつです。新築やリフォーム直後は、建材や塗料から微量の化学物質が放散されることがあるため、空気の入れ替えを徹底しましょう。
引き渡し前に業者に換気の徹底をお願いするのもひとつの方法です。
注文住宅だけでなく、賃貸住宅に住む場合もシックハウス対策は可能です。手軽にできる工夫で室内の空気環境を整え、子どもの健康を守りましょう。
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賃貸住宅では、高性能な空気清浄機の導入が効果的です。特に化学物質に対応した高性能なHEPAフィルター搭載機種は、花粉やホコリなどの微粒子だけでなく、VOCの除去にも役に立つでしょう。
HEPAフィルター購入時には「化学物質対応」「VOC除去」などの表示を確認しましょう。
室内にこもった空気を外に出すため、換気扇を常時稼働させることが大切です。さらに、1日2回程度、数分でも良いので窓を開ける習慣をつけると、室内の空気がリフレッシュされるでしょう。気密性が高い現代の住まいでは、意識的な換気が欠かせません。
炭や調湿効果のあるインテリア小物、VOCを吸着するエコカーテンを取り入れるのも有効です。炭には化学物質を吸着・分解する働きがあり、手軽に空気環境を改善できるでしょう。デザイン性の高い商品も多く、室内の雰囲気に合わせやすい点も魅力です。
家具や建具にも、合板の接着剤や塗料、防虫・芳香剤の化学物質が潜んでいることがあります。特に新しく購入する家具は、素材や塗装の安全性を確認することが大切です。すでにある家具は、できるだけ換気を徹底した上で使い、余計な芳香剤の使用は控えましょう。
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今回の記事では、シックハウス症候群の原因や子どもへの影響、健康的な家づくり・リフォームのポイント、そして賃貸住宅でもできる具体的な対策までをご紹介しました。シックハウス症候群の対策で最も大切なのは、目には見えない「空気の質」を意識することです。建材や塗料、家具などの素材選びだけでなく、計画的な換気や空気環境への配慮が、子どもたちの健やかな成長を支えてくれるでしょう。
家づくりやリフォームを検討する際は、設計段階からシックハウス対策を視野に入れ、信頼できる専門家にしっかり相談することをおすすめします。
監修:保科しほ(恵比寿こどもクリニック)
Profile
日本小児科学会専門医・指導医。麻酔科 標榜医。久留米大学医学部卒業後、横浜市立大学附属病院、国立成育医療研究センター、東京女子医科大学八千代医療センター、国立感染症研究所勤務を経て、医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック院長に就任。専門は小児感染症、小児救急、アレルギー。