その後の人生を左右するとも言えるアタッチメント。もし子どもとのアタッチメント形成に不安を感じた場合、保護者には何ができるのでしょうか?...
子ども部屋って結局必要?東大教授が考える愛着形成に好影響を与える住環境
子ども部屋はあった方がいい? 家族みんなで集うための工夫は? 東京大学大学院教授で発達心理学者の遠藤利彦先生に、アタッチメント形成に効果的なお家づくりを伺いました。
子どもが部屋にこもりがち……どうする?
――アタッチメント形成についてさまざまな角度から伺ってきましたが、最後は住環境を切り口にお話いただければと思います。アタッチメントを形成する上で、住環境に関して気を付けた方がいいことはありますか?
「すべてがオープンな作りがいい」と言われることもありますが、子どもの発達から考えると、みんなが集う場所、そして子ども1人で隠れることのできる場所、その両方があるといいと考えています。
遠藤利彦先生 プロフィール
東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。
みんなで集まって気持ちを通わせ、信頼関係を確認して深めていく。そこで育まれた安心感に支えられ、1人で何かに夢中になって探索していく。この2つが成り立つことが、バランスよく子どもの心の育ちを支えていくように思います。なので、できればお子さんのための部屋はあった方がいいでしょうね。
――こもりきりになるのを防ぐために子ども部屋を作らない保護者の方もいるのかなと思いました。
たしかに、子ども部屋に引きこもって共通の場所に顔を見せなくなるのは、お子さんの育ちにとって少しバランスが悪いかもしれません。ただ、子ども部屋があってもいろんな工夫ができると思います。生活する中で自然な形で顔を合わせることができると同時に、子どもが適度に身を隠す場所が持てる工夫ができるといいですよね。
――それでも子どもがなかなか部屋から出てこない場合、どんなコミュニケーションを心がけるといいでしょう?
基本的には「踏み込まない」ことがとても重要だと思います。引きこもりがちであったとしても、ヅケヅケと土足で踏み込めば子どもが反発することは目に見えています。なので逆に言えば、そっとしておく。ただしどこかで気にかけているというメッセージを与え続けることが絶対的に重要だと思います。
頻繁に声をかけてくれると、「ちょっとウザいな」みたいな反応をしていても、どっかで気にしているんだなという思いを持ち続けることができます。
自然と家族が顔を合わせる構造が理想
――住空間の中心となるリビングに関しては、何か気を付ける点はありますか?
テレビのようなAV機器がリビングに配置されていることが重要ではないでしょうか。同じものを家族全員が一緒に見て、同じものに関して会話を交わす。これがコミュニケーションの基本になります。スポーツ観戦でもアーティストのライブでも、リビングにそういうものを流す仕掛けや工夫があると、自然と家族が集う機会が増えるのかなと思います。
※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)
――トイレや洗面台やお風呂などの共用スペースについては、どういった状況が理想的でしょうか?
やはり、自然にどこかで顔を合わせる工夫があってもいいのかなとは思います。家族がそれぞれ部屋に直行できるような作りは、子どもの発達から考えるとマイナスへの作用が大きい印象です。リビングを中心に、1度そこに集まったら、今度はそれぞれがまた自分の居場所に帰っていく。そして自分の居場所から出るとまた自然にリビングに戻ってくる。それが理想かなと思います。
――部屋の広さや天井の高さといった物理的なものは関係ありますか?
ある程度の人数の家族に関して言えば、空間が狭いとパーソナルスペースの面からも居心地の悪さを感じてしまうでしょう。家族の人数に応じて、一定の広さと同時に天井の高さがあると、より心地のいい空間であると言えると思います。
――逆に広すぎるのはどうでしょう?
広すぎることも問題かなと思いますね。居心地のいい距離感で過ごせることが大切です。
――同じ話題を持つと良いという意味で考えると、キッチンで一緒に料理を作ってみるのもいいのかなと思いました。
お子さんの年齢にもよりますが、大きくなればそういう時間を持つのもいいですよね。あとは、お母さんやお父さんが作ってる料理を子どもが覗き込むというのも、気持ちを1つにする意味でプラスに働くと思います。
※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)
お部屋の構造の話で言えば、台所で料理をしつつも、子どもさんたちに目を向けることができる作りであったり、声がちゃんと届くような作りだったりすることが重要でしょう。子どもがシグナルを発信している時にすぐ応じられなくても、まずは子どもに視線を送ったり、声をかけたりできれば、子どもは落ち着いて家の中の生活を楽しむことができると思います。
――応答できる環境がとても大事ですね。料理に限らず、家事をしている時でも応答できる間取りだといいのかなと思いました。
「ながら」が意外と重要なので、何々しながらコミュニケーションを取るのはいいですね。どこかで繋がってる感覚を持てる家の構造はいいと思います。
子どもの年齢に応じて独立性を応援できる家を
――寝室についてもぜひ聞いてみたいです。子どもにとっては暗い部屋で眠ることが恐怖であると聞きます。安心感があって、家族のつながりをより感じられるのはどんな空間でしょうか?
これもお子さんの年齢によってかなり違いますが、幼少期の段階においては子どもと親御さんが一緒の部屋、さらには同じベッドやお布団で寝ると安心な状況を作り出せるでしょう。特に親と子が川の字で寝る文化がありますしね。
子どもが徐々に大きくなっていくと、少なくとも同床から別床になって、さらには別室になっていく。その移行がうまくできるよう、家屋がうまく設計されていることが重要なのかなと思います。年齢に応じた形で、お子さんの独立性を支援する構造がより望ましいですね。
――色彩、照明の工夫、もしくは静けさ、といった五感に関する面からは何かありますか?
乳幼児期における心の基盤作りに関して言えば、五感をフルに働かせることができる、そして子ども自身が自発的に運動できることはポイントになるでしょう。
※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)
見たり聞いたり書いたり触れたりといった、五感に関していろんな刺激を受けることができる環境が子どもの心の基盤の作りにおいて重要です。同時に、子どもが安心して自発的に動ける状況が大切です。移動するだけじゃなくて、手を動かす、何かを掴むといったことを濃密な形で経験できることが重要だと思います。
――庭やベランダについてはいかがでしょう?
親の目の届く範囲内で、子どもの探索が広がるような環境設定が望ましいと思います。家から出てお庭があって、庭に植物があったり、場合によっては虫や鳥がいたりする状況があれば、子どもは好奇心を向けることができるかと思います。
やはりその時にも、親から見守られている安心感があると一層夢中になれるでしょう。ある程度親の目が届くような範囲内で探索活動できるような、外の環境になっていることが子どもにとってはいいことかもしれません。
――小学生になると夏にベランダでアサガオを育てる光景もよく目にしますが、一緒に植物を育てることにも良い効果はありますか?
そうですね、効果的な共同作業になると思います。親御さんが時々子どもが育てている植物を見て、「昨日よりもこれだけ大きくなったね」と一緒に喜んだりする機会が持てるのは大切じゃないでしょうか。
そういう空間をうまく使って、共に何かをすると同時に、1つのものを共通のトピックにして会話を交わす機会を増やすことができれば、お子さんにとってはとてもいいことかなと思います。
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