子どもが泣きながら抱きついて離れないのは危険信号?東大教授が考えるアタッチメント形成に失敗した場合の取り戻し方
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子どもが泣きながら抱きついて離れないのは危険信号?東大教授が考えるアタッチメント形成に失敗した場合の取り戻し方

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その後の人生を左右するとも言えるアタッチメント。もし子どもとのアタッチメント形成に不安を感じた場合、保護者には何ができるのでしょうか? 東京大学大学院教授で発達心理学者の遠藤利彦先生にポイントを伺いました。

アタッチメント形成に問題がある子どもの行動パターン

――アタッチメントの形成が人生においていかに重要なのか、これまでのお話で理解できました。「うちは大丈夫かな……」と不安になった保護者の方は、子どものどんな点に注意すればいいのでしょうか?

アタッチメントの形成がうまくいっていない時の反応には2つのパターンがあります。1つは、困っているのに親を頼ろうとしないパターンです。必要がなくて親のところに身を寄せないのではなく、とても困っていて不安な感情の中にいても親に近づいてこない。あるいは気持ちを打ち明けようとしない。親に対して回避的な態度を取っている場合、アタッチメントに問題があると考えていただいていいのかなと思います。

もう1つは、逆にずっと親の元に居続けてしまう、親に対して執着してしまうパターンです。ずっと親と一緒にいてもポジティブな感情でコミュニケーションできている状態であればいいのですが、ずっとぐずっているような状態、あるいは怒りの感情をぶつけ続けてしまうような場合には問題があります。

画像1-Nov-07-2024-02-22-59-9121-AM遠藤利彦先生 プロフィール
東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。

――子どもがその2つのパターンを取るようになるには、どんな原因がありますか?

1つ目に挙げた回避的な態度を取るパターンは、怖くて不安で泣いて親に近づいた時、それを嫌がられて遠ざけられたような経験が1つの原因だと考えられます。それならむしろ泣きもせず、親に近づこうともしなければ、とりあえず親はそのままそこにいてくれると考えるようになるので、結果的には回避的なよそよそしい態度を取るようになってしまいます。

2つ目に挙げた親に執着してしまうパターンは、怖くて不安で泣いて親に近づいた時、親がある時には子どもに近づき、ある時には無視するといったような気まぐれな養育に晒された場合に起きることがあります。

親の都合や親の気分次第で、受け入れられたりそうではなかったりするので、子どもはいつどうすれば確実にくっついて安心感に浸れるのかという見通しが立てにくい。なので、日常全般における警戒心が強くなると言われています。警戒心が強いと同時に、置いていかれたら大変という不安も強い。置いていかれるぐらいなら、自分の方からくっついて回ろうと思うようになり、ずっとしがみつきながらネガティブな感情をぶつけるようになるのです。

GettyImages-1292341893※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)

抱っこされている状態は物理的には安全ですが、親の気持ちを信じきれていないので子どもは不安で仕方がなくてぐずるし、「絶対に置いていかないで」という抗議の意味で激しい怒りを親にぶつけ続けてしまう。こういったことは乳幼児だけではなくて、学齢期にも、場合によっては思春期にも起こります。

――2つのパターンの後者はまだしも、親を頼ってこないパターンだと、保護者が問題に気が付くにも時間が掛かりそうですよね。

そうですね。基本的に親御さんが子どもの様子に気づくかどうかがいちばんのポイントですが、愛着の形成がうまくいってないとご自身で気づくことはあまり多くはないかもしれません。たとえば子どもが学校で何か問題を起こした、不安傾向が強くて少し鬱っぽい、学校に足が向かなくなってきた、など問題が現れた時に原因を考え始めて、実は自分と子どもとの関係がうまくいってなかったと気づくことが一般的です。

最初はだいたい、対症療法的なやり方や無理に問題行動を辞めさせるような対応をしてみる。しかしそれでは根本的な解決には至らないと気が付きます。同じ問題が繰り返されることを経験する中で、抜本的な解決のために何が必要かというところに思いが至った時に初めて、親としての自分と子どもの関係を考え直す、という流れでしょう。

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「何かしてあげなくちゃ!」は逆効果

――親子関係を再構築するためにはどんなアプローチがありますか?

再構築する時に陥りがちな過ちとしては、とにかく何かやってあげないといけないという気持ちになることです。「今までの状況を大きく変えるためには、いろいろとやってあげないと子どもはよくならないはずだ」と思い込んでしまうと、基本的には逆効果です。

なぜアタッチメントの問題が生じていたかというと、子どもにとっての避難所と基地でいられなかったことが根本的な問題です。なので、関係を作り直すために大切なのは、愚直に避難所と基地であることです。何か困ったことがあった時には言ってほしい、シグナルを発信してほしいという思いを伝えていくことがいちばん重要だと思います。

そして、頭ごなしに否定したり叱ったりするのではなくて、子どもの気持ちを受け止めた上で、不安や悩みを一緒に考えていく。ある程度気持ちが立て直せたら、今度は子どもを送り出す。背中を押してあげて、世界にまた送り出す。それが子どもを信じるということでしょう。

親に限らず、良い悪いの判断を抜きにして無条件に自分を受け入れてくれる大人と1人でも2人でも出会って、そういう人と一定期間安定したアタッチメントを持続的に経験できることが人間の大きい変化に繋がっていきます。これはほぼ確実に言えることかと思います。

――子どもからの信頼がない状態からアタッチメント形成をすると考えた時に、どういうところから導入していくのがいいのでしょう?

子どもの好きなものから近づいていくのが自然な形なのかなと思います。

成長していくと、子ども自身が趣味の世界、自分自身が大切だと思う特別な世界を持っていくことがあるかと思います。サッカーが好きであればサッカーが好きな大人の人と会話を交わしたり、一緒にサッカーをしたりする機会ができてくることもあるでしょう。言ってみればそういうものが入り口になることがとても重要です。 一緒に好きなものを楽しんで話すことが入口になることは多々あります。

そういう機会を大切にしていくことが第一歩でしょう。共通の趣味で話が盛り上がったり、話が持続できるようになる過程で、実は知らず知らずのうちに信頼関係が築かれていくことは確率的には多いのです。

入口からアタッチメントを意識するのではなくて、子どもの好きなところから入って結果的にアタッチメントが形成されていた、というのが無理のない方法かなと思います。

(第4回に続く)

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