子どもの創造性を引き出し伸ばしていくために、保護者はどんな働きかけができるのでしょうか? 脳科学研究の第一人者である瀧靖之先生に、子どもの創造力を育むために重要な考え方をお伺いしました。
「うちの子、何にも興味がなくて」と嘆く親に足りないことは?才能を伸ばす環境づくり【脳科学者瀧靖之先生】
子どもがどんな分野に才能を持っているのか、出来れば早いうちに把握したいところ。しかし脳科学研究の第一人者・瀧靖之先生は「人の才能は簡単にはわからない」と言います。では、保護者のできることは? 瀧先生に伺いました。
瀧靖之(たき・やすゆき)/1970年生まれ。医師。医学博士。東北大学大学院医学系研究科博士課程卒業 。東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長。 脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究に従事。読影や解析をした脳MRIは、これまで16万人分にのぼる。一児の父。
子どもの才能を伸ばす生活習慣
――子どもの才能を伸ばしたい保護者は、どんな住環境を意識すればいいでしょうか?
家の中でできることで言えば、本や図鑑を子どもの手に取りやすい場所に置いておくことでしょうか。
人は少しでも障壁があるとだんだん行動しなくなります。たとえばフィットネスジムに通い続ける人はすごく少ない。ジムに通うハードル、運動しやすい服に着替えるハードル、運動するハードル、と山のように障壁があります。
ではハードルを下げるにはどうしたらいいか。常にすぐ行動できる環境を作ることです。わたしは日常的に筋トレをしていますが、一切ジムには行かずに自宅でヨガマットを使って自主トレーニングをしています。
勉強も同じで、わたしがリビング学習をおすすめするのは、子ども部屋に向かう10秒の間にやる気が失せるのを防ぐためです。図鑑も本棚に差すと取りに行く数秒のうちに面倒になって、そのうちただのお飾りになってしまいます。だから常にリビングのテーブルの上に置いておいて、すぐに開けるようにしておくような工夫が大事だと思います。
あとは環境の豊かさも大事だと言われていますね。
――環境の豊かさとは、どんなことを指しますか?
環境の豊かさにまつわる最たるものは、コミュニケーションです。家の中で会話が弾むような仕掛けをすることは、大事だと思います。
わたしが建てた自宅は、どこに誰がいても常に気配がわかるような、大広間の家なんです。リビングから風呂場にいる子どもと話せる、寝室とキッチンでも会話ができるといったつくりで、とにかくどこにいてもコミュニケーションが取れる。そういうのが大事だなと思ってます。
――睡眠や栄養摂取などもまた、才能を伸ばすことに関連がありますか?
才能もそうですし、脳の発達という観点からも関連があります。十分な睡眠はもちろん大事ですし、食に関しては特定のものばかり食べないことが重要です。あと、超加工食品は避ける。
――超加工食品?
たとえばハンバーガーのような、もとの素材の形がほとんど見えなくなった食べ物です。それらは避けて、できるだけ野菜、果物、肉や魚などを摂った方がいいと言われてますね。超加工食品、たとえばスナック菓子やハンバーガー、ラーメンなどは腸内細菌の多様性を下げるそうです。脳の発達にもあまりよくないと。
――腸内細菌と脳の関係というのは?
大腸の中にいるさまざまな細菌が有機化合物を作り出すんですよ。それが脳に行ってさまざまな効果を与えると言われています。 腸内細菌の中で栄養になるのが食物繊維で、脳にとてもいいと証明されています。発酵食品なんかもそうですね。いつもスナックばっかり食べるとか、そういうのは良くないと。バランスよく、品目が多い食事こそが一番だということが言われています。
※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)
――品目数が大事なんですね。
そうですね。 だから、バナナが体にいいからと言ってバナナばかり食べる、特定のオイルがいいと言ってそのオイルばかり摂るのもあまりよくないですね。結局はバランスが大事なんです。
ストレスは必ずしも悪じゃない?
――才能を伸ばすにあたって適度なストレスは必要でしょうか?
むずかしい質問ですね。どんなストレスであっても、体にはネガティブな影響を与えると思います。ただし、自分自身がいろんなことを乗り越えるという、心理的な効果から言うとまた話は別でしょう。
努力が自己肯定感を高めると言われていますし、知的好奇心の定義は、単純に身の回りのものに対する興味や関心だけではありません。苦労をしてでも成し遂げたいと思う気持ちも知的好奇心に入ります。その苦労もストレスはストレスですよね。
わたしは昆虫採集が大好きですが、何十キロも自転車を漕いで昆虫のいるところまで行かないといけない。それでもその昆虫を見たい。それはまさしくストレスなわけですが、知的好奇心という観点ややり抜く力を育むという観点から見れば、とてもいいことじゃないですか。
ストレスは体に悪い。これは間違いのない事実です。ストレスは副腎皮質ホルモンを出して、海馬の神経新生を抑えます。医学的にはそうなのですが、ただ、それを超えるワクワク感があるわけじゃないですか。そう考えると、ストレスがいいか悪いかという問題は複雑です。ストレスにも勝るような熱中体験や知的好奇心に寄与するなら決して悪い事だけでは無く、良い事も多いと思います。
とはいえ、やっぱりストレスが大きいのはよくない。ストレスを軽減する必要もある。その方法は明確に2つあります。運動と睡眠です。
有酸素運動は、脳の中にある扁桃体と呼ばれる領域、ここはストレスでも活動する領域ですが、その過活動を抑えてくれます。具体的には、脳の中で「不安だな」「嫌だな」と思う気持ちにぐっとブレーキをかけてくれるのです。だから、有酸素運動はとってもいい。子どもがちょろちょろ走り回るのもとてもよい効果があります。私たち大人も、走るとスッキリするのはまさにそういう仕組みです。
あと、睡眠も同じく扁桃体の過活動を抑えてくれると言われています。だから、ストレスを感じたときにふて寝をするのは理にかなっています。究極によくない生活習慣は、寝不足なんです。海馬も萎縮するし、ストレスの発散にもならないし、見た目もどんどん老けていくし……睡眠不足には本当にいいことがありません。
孤独は人の寿命を短くする
――瀧先生もたくさん睡眠をとりますか?
はい、どんなに忙しくても6~7時間は寝るように心がけています。寝ないと絶対体によくないので。
――先ほどおっしゃったストレスが扁桃体の過活動を抑えるというお話ですが、たとえば娯楽を楽しむことにも同じ効果はありますか?
もちろんです。趣味の活動や会話にも効果があります。 嫌いな人との会話はそうでもないかもしれないけど(笑)、家族や友人との会話は情報のやり取りではなく、気持ちのやり取りだと言われていますね。人は自分の気持ちを理解してもらった時に幸福感を感じると言います。同じく、相手の気持ちを理解できた時も幸福感を感じると。
※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)
――たしかにそうかもしれません。
人は話を聞いてもらえることに幸せを感じます。逆に孤独は寿命を縮めると言われているくらい、孤独はストレスなんです。物理的な孤独じゃなくて、社会的孤独と言われているものが問題です。
――どんな違いがありますか?
一人暮らしかどうかではなくて、普段気の合う友だちがいない、話せる家族がいないといった孤独です。孤独感は何よりも人の寿命を縮める毒になると言われていますね。だから、コミュニケーションはとても大事です。
「うちの子は何にも興味がない」という親は〇〇が足りない?
――子どもの才能を見極めるポイントのようなものはありますか?
子どもは興味関心が刻々と移っていくものです。興味関心やいろんなものは変わっていくものなので、どこに才能があるのかはわかりません。ただ、唯一大事だと思うのは、知的好奇心。だから知的好奇心を伸ばしておけば、何か対象を見つけた時に熱中体験ができるようになります。知的好奇心が二次的に才能を伸ばすエンジンやきっかけになると言えるかもしれません。
※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)
その一方で、野球選手のイチローさんは、父のチチローさんによくバッティングセンターへ連れられていったという話が有名ですよね。それがのちに才能として開花するわけなので、何が正解なのか判断するのはむずかしいのですが、ただ言えることとしては、子どもがハマってるものに対してはできるだけ邪魔をしないで背中を押してあげるのがすごく大事なのかなと思いますね。
――子どもに余計な口出しをしないようにします……。
子どもだけじゃなく、自分自身にどういう才能があるかは私自身今でもすべてわかっているわけではありません。「わたしはこういうの苦手」と思っていることでも、いざやってみると案外できることもあります。
自分は子どもの頃、運動が苦手だと思っていたけど、体力運動能力健康優良児に選ばれたこともあったり、自分は営業活動なんか絶対できないなと思っていても、ベンチャーを興していざやってみると楽しかったり。
自分の才能がどこにあるかわからないし、子どもにも同じように思います。だから、大事なのは観察ですね。 あまり観察をせずに「うちの子は算数もできないし、やる気もないし」と子どもに対して思ってる方でも、もう一段階深く観察してみてほしいです。
ひょっとしたら、字が上手とか、文章が美しいなとか。だから、常に観察するのがいいと思います。いわば、それも好奇心なんですよ。自分に対する好奇心でもあり、人に対する好奇心です。だから、やっぱり行きつくところは好奇心ですね。
(第4回に続く)
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