都会での暮らしは時に大人にとってもストレスの多いものですが、子どもにはどのような影響を与えるのでしょう?...
見逃さないで!子どものSOSサイン―精神科医が教える心の不調の気づき方
子どもの様子がおかしい。学校に行きたがらない。そんな時に保護者はどのような対応をとるのがいいのでしょうか。また、早めに子どものSOSサインに気づくには?精神科医の藤野智哉先生に、子どものサインを見逃さないために知っておきたいことを教えていただきました。
藤野智哉:精神科医。1991年7月8日生まれ。 秋田大学医学部卒業。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神科病院勤務の傍ら医療刑務所の医師としても務める。著書に『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
子どものSOSサイン、保護者はどう気づく?
――子どもに何か問題が起きた際の対応について伺っていきたいと思います。まず、 子どもの心の不調を示す一般的なサインにはどのようなものがありますか?
体調面で言えば、腹痛や頭痛はもちろんのこと、イライラしやすくなるのもひとつの特徴です。いつもより子どもが不機嫌だったり悲しそうだったりしたらサインかもしれません。小さな子の場合は、親との分離不安が出て、しがみついて離れないこともあります。
――腹痛や頭痛はほかの人と共有できるものではないから、ただの言い訳だと受け取る保護者の方もいると思うのですが、どのように見極めていくことができますか?
見極めるのはむずかしいのではないでしょうか。言い訳にせよ、 言い訳ではなく本当に痛いにせよ、何らかの理由があってしんどいことは事実です。なのでどちらだったとしても、気にしてあげる必要があることで、言い訳だから軽んじていいというわけではないと思います。
――深刻度の判断基準にもグラデーションがあって見極めがむずかしいと思うのですが、いかがでしょうか?
むずかしいのですが、頻度やタイミングを見ることは重要かもしれません。たとえば体育の授業の日は毎回こういうふうになる、ということがあればそれは一つのヒントにはなりえます。
もちろん身体症状として出ているようであれば、深刻であろうがなかろうが病院に行っていい。気持ちの問題だと思っていたら、実はお腹の病気が隠れている可能性もありますし。
――表面化しにくい心の問題は体や態度に現れると思いますが、それでも出てこない問題はありますか?
当然あるとは思いますが出てこないものは、見つけられないですよね。何かしら現れてくるということは、限界を超えて溢れ出ているわけなので、その前に日々コミュニケーションを取って、「この子ちょっと最近ストレス感じてないかな」と感じ取っていくことも大切になります。
※写真はイメージ(gettyimages/RyanKing999)
医者からの質問に親がなんでも答えてはいけない
――子どもが学童期になった時に注意すべきサインについてはいかがでしょう?
集中力が下がったり、イライラして人とのトラブルが増えたり、ミスが増えたりといったことがストレスから起こることがありますし、成績悪化もありうるとは思います。そのほかでわかりやすいのは食欲の低下です。小さい子よりも食べる量が増えてくる年なので減れば目立ちますので、そのあたりもひとつのサインだと言えるでしょう。また、学童期には子どもが趣味を持ち始めますが、好きなアニメや好きな遊びなどに興味を示さなくなるのもひとつのサインになるかもしれません。今まで好きだったことをやらなくなる。興味関心の減退です。
さらに言えば、学校に行きたがらないこと。子どもが「学校に行きたくない」と言うと、「そんなこと言うな」「ちゃんと行って」と保護者は言いたくなるかもしれないけど、状況を聞いてみることが大事です。「学校に行きたくない」のなかにも、学校そのものが嫌な場合もあれば、先生が嫌な場合もあるし、友達が嫌なのかもしれない。もしかしたら通学の電車が嫌なこともあるだろうから、そのあたりはしっかり聞き分けていく必要があります。
――人間関係が原因で学校に行きたくないという場合は、「行かなくてもいいよ」と言う保護者さんも多くいらっしゃいますが、それについてはいかがでしょう?
良し悪しがありますね。たとえば友だちとうまくいかない理由は果たして相手側だけの問題なのか、子ども側にも要因があるのか。そういったことにもよりますよね。全部ストレスになるものを避けたらいいというわけではないですし無理に学校に行った結果、取り返しのつかないことになってしまう子がいるのも事実です。
本当にケースバイケースですが、状況によっては「行かない」という選択肢もあると思います。その代わり、休んだ日はその分おうちで勉強するなどといったルールを作るのがいいかもしれません。休めるのはいいかもしれないけど、何も学ばず何も得られず、そのまま高校に上がって誰が責任取ってくれるのか、ということになってしまうので。また、勉強は家でもできますが、人とのかかわりは家だけだと体験に限界があります。フリースクールや習い事ならいけるのか、なども含め、メリットデメリットを加味した上で考える必要があると思います。
――先ほどあがったように、乗り越えるべき課題である可能性もあるということですよね。
そうです。程度によりますし、乗り越えなくていい場合もありますが、本当にちょっとしたトラブルに直面したからといって学校に行かなくていいで終わらせてしまうと、そこで大事な課題をスルーしてしまう可能性があるので。
――もし子どもが問題を抱えているとして、病院でその状況を伝える時にはどんなことに気を付けたらいいでしょうか?
基本的に先生の方から必要な情報を聞くのですが、親御さんとお子さんがそれぞれ困っている内容がまるで違う場合があります。先生が子どもに直接聞いているのに、親御さんが代わりにしゃべってしまって、その子の意見が聞けないこともあります。なので、それぞれの困りごとをはっきりさせておくことは大事です。
あとは親御さんが「この子おかしいんです」と勝手に病気だと決めつけていることもありますが、お子さんの立場から見ると全然変じゃないこともあるのであまり決めつけて話さないことが大切です。場合によってはお子さんと別で話してもいいですね。先生と子どもが話させたがらない保護者や「私と一緒じゃないと診察させないです」という方もいますけど、子どもの意見をちゃんと話させてあげることがとても大切です。
親が子どものストレスを作っていない?
――子どもの健康維持のためのケア方法や予防について教えていただけますか?
親の子どもに対する敏感さは、レジリエンスを考える時にも大事だと言われています。要するに、いかに子どもに対して注意を払って、些細な変化を見逃さないことが大事ですよね。さらに親としての役割は、子どものストレスをなるべく軽減させてあげることなのですが、どちらかといえば、親は子どもに余計なストレスを与えることが多いんですよね。つい喧嘩してしまったり、つい過干渉をしてしまったりしてしまう。だからむしろ害さないことを心がける。自分の加害性にも少し意識を向けてみることが大事かもしれません。
――たしかに……耳が痛い話ですが、大切ですね。
あとは生活サイクルですね。放っておくと子どもたちのサイクルはどんどん乱れるので、そのあたりの指導やある程度の介入は必要です。あとは生活環境として、寝やすい環境が作られているか、たとえば子ども部屋の真横で毎晩自分がテレビやYouTubeを見ながらお酒飲んで騒いでたとしたら、当然子どもは睡眠が妨げられますよね。そういう加害をしないことだと思います。
――自分の行動を省みることからですね。そういった加害性を見直したうえで、子どものストレス耐性を育むにはどうしたらいいでしょう?
結局、同じものを見た時、体験した時にそれをストレスと思うかどうかは人によって変わってきます。さらに言えば、子どもは誤った認知をしてしまうことも多くあります。
「怒られたからもう私はダメなんだ」「嫌われてるに違いない」などとネガティブに認知しがちなので、その見直しを手伝ってあげるのが親の役目かなという気はします。認知行動療法のようなもので、何か子どもが決めつけて言っていたら、なぜそう思ったのか、そうじゃないとしたらどういう可能性があるのか並列でたくさん書いてみる。
あとは、それを信じるメリット、デメリットを書いてみる。「他の人が同じことを言ってたらどう思う?」と聞いてみる。要するに、別の視点を入れ見直してみることです。このように、いろんな視点から捉え直させてあげることで、ストレスだと決め込んでいるものが実はそうじゃない可能性もあると気づくことにつながります。それを手伝ってくれる家族がいることもまたその子にとってひとつの武器です。
――子どもに物事の見方や感じ方はひとつじゃないと気づいてもらうこともそうですが、保護者が余裕を持ってお子さんを見てあげる、適切にコミュニケーションを取ることが大事で、そこは量より質ですね。忙しいことを理由にできないと思いました。
実は見逃している時間もたくさんあって、たとえば車での送り迎えの時間だって毎週一回につき10分ずつあるとしたら、それも貴重な時間です。その時にちゃんと話をしようと思って準備しておくことも大事ですね。意識しないとなあなあに流れていくので、準備しておくと有効活用できますよ。
まずは親自身の心身安定を
――心身の不調を予防するために朝日を浴びるといいといった話があると思いますが、生活リズムはどのように影響しますか?
それはもう基礎の基礎の基礎で、決まり切ったことですよね。一日三食をある程度決まった時間に食べるのは間違いなく大事だし、決まった時間に起きることも大事です。人によっては早く寝ることから始めようとする人がいますが、眠りの調子を整えるのは決まった時間に「起きる」ところからなんです。早く起きれば自然に眠たくなる時間も早まります。このサイクル以外はあまりないですね。昼寝してもいいのですが、午後3時より前、さらに30分以内だといいと言われています。
――ちなみにお子さんだとどれぐらい睡眠時間を確保したらいいでしょう?
昔は8時間以上と言われていましたが、今は人によって必要な時間が違うと言われるようになっていますね。ただ、 少なくとも6時間は確保してほしいです。
――睡眠ともかかわることですが、親自身のメンタル ヘルスケアの重要性について教えてください。
言うまでもない話ではありますが、保護者が安定してないことによって子どもに当たってしまったり、夫婦間がいつも喧嘩をしていると、ストレスを与える側になってしまいます。そういった意味でのコントロールが必要です。レジリエンスの話で言うなら、保護者がストレスを与えず、なるべく取り除いてあげることがレジリエンスを育むことはもう言われてるので親自身のメンタルヘルスケアは言うまでもなく重要なのです。
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