「段差のない家づくり」設計のコツと費用は?家族も安心なアイデア集
※写真はイメージ(Adobe Stock/norinori303)
「段差のない家」って、おじいちゃんやおばあちゃんのための「バリアフリー住宅」というイメージが強いかもしれません。
でも実は、元気いっぱいの子どもがいるファミリーや、将来のことを考える私たち世代にとっても、とても暮らしやすい家になります。
つまずいて転ぶ心配が減るのはもちろん、お掃除ロボットがスイスイ動けたり、ベビーカーのままお部屋に入れたり、毎日の暮らしがぐっと快適になります。
将来、パパやママが高齢になったり、自分たちが車椅子を使うことになったりしても、リフォームの心配なく安心して住み続けられます。
この記事では、「段差のない家」を実現するための設計のポイントから、気になる費用や、家づくりのヒントをたっぷりお届けします!
段差のない家のメリット・デメリットは?
まずは、段差のない家にはどんな良いところがあって、どんなところに気をつけたらいいのか、見ていきましょう!
メリット
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転倒・ケガのリスクを減らせる
なんといっても一番のメリットは、家族みんなの安全です。
おもちゃに夢中で走り回る歩き始めたばかりの小さなお子さんや、おなかが大きくなってきた妊婦さん、そしてご高齢の家族も、つまずく心配が減って安心です。
家の中の思わぬ事故を防げるのは、とっても大事なポイントです。
家事動線がスムーズ&掃除がしやすい
段差がないと、掃除機をかけるのがとってもスムーズ!お掃除ロボットも家じゅうをくまなくキレイにしてくれます。
重たい荷物を運ぶときや、家具の移動(カートやワゴン)・模様替えも、段差を気にしなくていいのも嬉しいポイントです。
日々のちょっとしたストレスがなくなるだけで、家事の負担がとても軽くなります。
将来の介護を見越したバリアフリー設計になる
今は元気でも、将来のことは誰にも分かりません。車椅子での生活にも対応しやすい設計にしておけば、老後も安心して暮らせます。
新築のタイミングで備えておけば、将来大規模なリフォームをする必要がなく、トータルコストを抑えることにもつながります。
見た目がすっきりしてスタイリッシュな印象に
床の高さが揃っていると、視線がさえぎられず、お部屋全体が広々と統一感のある空間に見えます。
家具の配置もしやすく、モダンでおしゃれなインテリアを楽しみやすいのも嬉しいポイントです。
ペットにもやさしい住まいに
家族の一員であるワンちゃんやネコちゃんにとっても、段差のない家は快適です。
特に足腰が弱ってくるシニアのペットにとって、段差の上り下りは大きな負担になります。
家族みんなが、ずっと元気に暮らせる優しい家になります。
デメリット
スキップフロアや段差を活かした立体的な間取りができない
段差をなくすということは、空間をゆるやかに区切るスキップフロアや、小上がりの和室のような、立体的な間取りをつくるのが難しくなります。
空間に変化をつけにくく、間取りの自由度がやや低くなる可能性があります。
玄関や浴室など、構造的に段差を完全になくすのが難しい箇所がある
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日本の住宅は、湿気対策や水の浸入を防ぐために、玄関の上がり框(あがりかまち)や浴室の入口に段差を設けるのが一般的でした。
これを完全になくすには、特別な設計が必要になり、コストアップの原因になることもあります。
床下収納が取りにくい・設置しにくい
床の高さに差がないため、床下にスペースを確保して収納を作るのが難しくなる場合があります。
収納計画を立てる際には、壁面収納を増やしたり、デッドスペースをうまく活用したりする工夫が必要になります。
砂やホコリが家に入りやすい
玄関の段差には、外の砂やホコリ、雨水が室内に入るのを防ぐ「ダム」のような役割もあります。
段差がないと、これらが直接リビングなどに入りやすくなる可能性があります。
玄関に広い土間を設けたり、性能の良いマットを置いたりする対策がおすすめです。
段差のない家づくりの間取り・設計のポイント
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土間玄関からリビングまでの段差解消
玄関の上がり框(あがりかまち)をなくして土間とリビングをフラットにつなげると、お部屋が広く見え、ベビーカーや車椅子もスムーズに入れるのでとっても快適です。
しかし、外の砂やホコリ、雨の日の泥がそのままお部屋に入りやすくなってしまいますが、設計の工夫でしっかり対策できます。
例えば、雨が直接吹き込みにくいように深い庇(ひさし)を設けたり、靴の汚れをしっかり落とせる高性能な玄関マットを置いたりするのが効果的です。
さらに、土間とリビングの床材の色や素材を変えたり、間接照明でエリアを分けたりすることで「ここまでが土間」という意識が生まれ、汚れの広がりを防げます。
玄関アプローチにスロープを取り入れる
おうちの外から玄関ドアまでのアプローチも、安全な家づくりの大切なポイントです。
階段だけでなく、なだらかなスロープも一緒に計画しましょう。このとき、スロープの勾配(角度)は「1/12以下」(約4.76度)にするのが理想的です。
これなら、車椅子やベビーカーでも誰かの手を借りずに、自力で楽に上り下りできます。
雨の日でも滑りにくい素材を選び、スロープの横に手すりをつけると、さらに安全性がアップします。
おうちの「顔」である玄関周りこそ、誰にとっても優しい設計にしたいですね。
浴室・脱衣所とのフラット設計
お風呂場や脱衣所は、家の中でも特に転倒事故が起こりやすい場所なので、設計には一番気を配りたいエリアです。
脱衣所と洗い場の間の段差をなくし、フラットにすることが基本。床材は、水はけが良くて滑りにくいものを選ぶのが絶対条件です。
また、入り口のドアは、開閉時に場所を取らず、開口部を広く確保できる引き戸や折り戸がおすすめです。
将来、介助が必要になることも考えて、浴室は1坪(約160cm×160cm)ほどの広さを確保しておくと、さらに安心です。
室内ドア・床の継ぎ目を最小限に
お部屋と廊下の間などにあるドアの敷居は、大人でも意外とつまずきやすい危険なポイントです。
この小さな段差をなくすには、床にレールが必要ない「上吊り式引き戸」がおすすめです。
敷居を完全になくすことができるので、つまずく心配がなくなり、お掃除ロボットも家じゅうをスムーズに動き回れます。
また、ドアだけでなく、家の中の動脈となる廊下自体の幅も重要です。車椅子が楽に通れるよう、有効幅で90cm以上を確保すると、日々の移動が快適になります。
フラット設計・バリアフリーで取り入れたい仕様・設備
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さらに快適で安全なおうちにするために、ぜひ取り入れたい設備や仕様をご紹介します。
滑りにくい床材を選ぶ
おうちの中で、特に玄関アプローチや浴室、トイレなどの水回りは、床が濡れて滑りやすくなるため、転倒事故が起こりやすい場所です。
家族の安全を守るために、床材選びはデザインだけでなく機能性を重視しましょう。水に強く、滑りにくい加工がされた素材を選ぶことが絶対条件です。
例えば、玄関にはざらつきのあるタイルを、脱衣所やトイレにはクッションフロアや滑り止め加工のあるフローリングを選ぶなど、場所に合わせて最適な素材を検討することが大切です。
引き戸で出入りをスムーズに
開き戸は、開けるときに体を引く動作が必要で、車椅子の方や力が弱い方には少し負担になることがあります。
そこでおすすめなのが、横にスライドさせるだけで楽に開閉できる「引き戸」です。
少ない力で開け閉めできるだけでなく、ドアの前のスペースを有効活用できるのも嬉しいポイントです。
特に、床にレールが不要な「上吊り式引き戸」にすれば、足元が完全にフラットになり、つまずきの原因をなくせます。お掃除ロボットの移動もスムーズになります。
通路幅や間口を広く確保する
毎日通る廊下は、家の中の大切な動線です。車椅子でスムーズに通ることを考えると、廊下の有効幅は最低でも90cm以上確保することが推奨されています。
介助する人が横に付く場合は、120cmから150cmの幅があると、お互いにぶつかることなく安心して移動できます。
一般的な住宅の廊下幅より少し広めに設計するだけで、日々の暮らしの快適さが大きく変わります。
設計の早い段階で、将来を見据えた通路幅を計画しておくことが重要です。
手すりを設置する
トイレでの立ち座りや、浴槽を出入りするとき、廊下や階段を歩くときなど、ちょっとした動作を支えてくれる手すりは、転倒防止に絶大な効果を発揮します。
暮らしの中の「ヒヤリ」としがちな場所に、前もって設置しておくと安心感が格段に上がります。
後から付けることもできますが、新築時に壁の内部に下地を入れておけば、将来的に好きな場所へ頑丈に取り付けることが可能です。
家族の動きを想像しながら、どこにあると助かるかを考えて計画しましょう。
将来を見据えて寝室の広さを確保する
今は夫婦二人でゆったり使っている寝室も、将来のライフスタイルの変化に備えて、少し広めに設計しておくと安心です。
例えば、将来的に介護が必要になった場合、介護用のベッドを置いたり、車椅子で室内を移動したり、介助者が作業したりするためのスペースが必要になります。
ベッドサイドからトイレまでの動線をスムーズに確保できるか、ドアの開口部は十分か、といった視点も大切です。
先のことも少し考えておくだけで、リフォームなどの負担なく、長く快適に住み続けられる家になります。
段差のない家づくりにかかる費用とコストを抑えるコツ
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気になるのは、やっぱりお金のこと。段差のない家にするには、どれくらい費用がかかるのでしょうか?
注文住宅の場合、費用はどれくらいかかる?
新築で段差のないバリアフリー設計を取り入れると、スロープを設置したり、廊下やドアの幅を広くしたりする必要があるため、一般的な住宅に比べて建築費用が少し上がることがあります。
一つの目安として、総建築費が3%から10%ほど、金額にすると200万円から500万円程度の上乗せとなるケースが考えられます。
もちろん、導入する設備のグレードや設計のこだわりによって費用は大きく変わりますが、将来のリフォーム費用を先取りして投資すると考えれば、長い目で見ると合理的とも言えます。
段差を無くすリフォーム費用はいくら?
今住んでいるおうちをリフォームして、段差をなくすことももちろん可能です。どこを工事するかによって費用は様々ですが、代表的な工事の費用相場は以下の通りです。
手すりの設置
浴室やトイレで3万円~5万円、廊下や階段では5万円~20万円程度が目安です。
ドアを引き戸に交換
開き戸から引き戸への交換は、1箇所あたり5万円~15万円ほどが相場になります。
浴室全体をバリアフリーに
ユニットバスの交換など、浴室全体をバリアフリー対応にリフォームする場合は、150万円以上かかることもあります。
住宅会社に要望を伝える際のポイント
コストを上手に抑えながら理想の家を建てるには、家づくりの計画のなるべく早い段階で、「家族みんなが安全に暮らせるように、段差のないフラットな家にしたい」という要望を、建築会社や設計士さんにしっかり伝えることが何より大切です。
最初に要望を伝えることで、全体の動線や収納スペースなどを考慮しながら、無駄のない効率的な空間利用を計画しやすくなります。
後から変更するよりも、設計段階で組み込む方が結果的にコストを抑えることにつながります。
補助金・助成金制度
バリアフリーのための家づくりには、国や自治体から補助金がもらえる制度があります。これらを上手に活用すれば、費用負担をぐっと軽くできるので、必ずチェックしましょう。
国の補助金制度(国土交通省など)
子育てグリーン住宅支援事業
省エネ性能の高い住宅を対象とした制度ですが、手すりの設置、段差解消、廊下幅の拡張といったバリアフリー改修も補助の対象に含まれることがあります。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
住宅全体の性能を高める大規模なリフォームが対象で、バリアフリー工事を組み合わせることで大きな補助が受けられる可能性があります。
介護保険における住宅改修費(厚生労働省)
ご家族に要支援・要介護認定を受けた方がいる場合、手すりの設置や段差解消などの特定の改修工事に対して、費用20万円を上限に、その7割から9割が支給されます。ただし、必ず工事を始める前に市区町村への申請が必要なので注意しましょう。
地方自治体の独自制度
お住まいの市区町村が、独自に住宅改修の助成制度を設けている場合も多くあります。国の制度とは別に利用できることもあるので、家づくりを計画する地域の役所の担当窓口に相談してみることが大切です。
段差のない家づくりで「今」と「未来」の安心を
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「段差のない家」は、ただバリアをなくすだけでなく、年齢や能力にかかわらず誰もが使いやすい「ユニバーサルデザイン」の考え方に基づいた、家族みんなの暮らしを豊かにしてくれる、新しい住まいのスタンダードです。
家事のしやすさや掃除の手間も軽減される意外なメリットがたくさんあり、毎日の生活にゆとりが生まれます。
そして何より、子どもたちがのびのびと走り回り、将来自分たちが年を重ねても、ずっと安全に、そして安心して暮らせるという大きな価値があります。
家づくりの成功の秘訣は、家族の「今」と「未来」を想像して、安心して暮らすための「先手」を打つことです。
建築会社との打ち合わせでは、「家族みんなが安心できる、段差ゼロの家にしたいです!」と、想いをしっかり伝えてください。
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