子どもが都会で育つメリットとデメリットは? 精神科医が教える「心の安全基地」の作り方
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子どもが都会で育つメリットとデメリットは? 精神科医が教える「心の安全基地」の作り方

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都会での暮らしは時に大人にとってもストレスの多いものですが、子どもにはどのような影響を与えるのでしょう? 精神科医の藤野智哉先生に、子どもが都会にいながらにして安心して暮らし、健やかに成長するために必要なことを伺いました。

画像2-Jan-23-2025-06-54-20-6701-AM藤野智哉:精神科医。1991年7月8日生まれ。 秋田大学医学部卒業。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神科病院勤務の傍ら医療刑務所の医師としても務める。著書に『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

都市部は子どもの居場所が作りにくい?

――藤野先生に都会での子育てについて伺っていきたいのですが、子どもが都市環境で感じやすいストレス要因を教えてください。

通学で満員電車に乗るのは当然ストレスだと思います。最近、とある研究で、通学時間が1時間以上かかる生徒は、30分未満の生徒に比べると抑うつ症状が出るリスクが1.6倍、不安症状が出るリスクが1.5倍高いという結果が示され、話題になりました。

――対策は可能ですか?

通学時間が長いことが憂鬱につながるのも、乗車時間が長いからストレスなのか、早起きがストレスなのか、そこは人によって違います。なので、自分のストレス因子をまずはっきりさせることが重要です。

早起きは苦じゃないけど、混んだ電車に乗るのが苦であれば、時間を早めて混まないルートを選べばストレスは軽減されます。逆に早起きが苦痛で混雑はそこまで苦でないなら、遅い時間まで寝てもいいし。その点をはっきりさせることですね。雑音に関しては、今は性能のいいイヤーマフもあるので、そういったものを導入してもいいかもしれません。

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都会でのストレスという点でいえば、受験競争が激しい環境であればそれも要因になるかもしれません。都市部だと「みんながしてるから」という理由で「うちの子もお受験させないと」と思いがちですが、大事なのは「この子にとって何が必要か」なので、そこはブレないようにしないといけないかなと思います。

また、核家族化している中でさらに都市部だと、人との繋がりが希薄なこともストレスになりうるでしょう。子どもがアイデンティティや自分らしさを作るためには、人とのかかわりの中で自分の立ち位置を見つけていくわけなので、そういった意味でこころの成長に影響する部分はあると思います。

――人とのかかわりとこころの成長について、もう少し詳しく教えていただけますか?

相談できる人や場所はとても大事ですよね。大人は会社や自宅以外にも趣味のつながりなどいろんな場所を持ちやすい一方、子どもが持てる居場所は学校か家、あとは習いごとくらい。学校と家しか居場所がない子どもがたとえば学校でいじめに遭うとすると、自分の居場所の50パーセントが損なわれてしまいます。だけど、たとえば近所のおじちゃんの家が安全基地として感じられたり、所属感を得られるような場所であったりすると、ストレスが軽減される。都会ではそういったつながりが持ちにくいという意味で、ストレスにはなりやすい面があると思います。所属感の減弱は、希死念慮、つまり「消えたい」と思ってしまうことにも影響すると言われています。だから所属感はすごく大事ですね。

――都会だと所属感を得にくい場合があるということですよね。教育面に関しては都市部の方が充実していると思うのですが、いかがでしょう。

当然過剰なストレス競争が合わない子もいますよね。都市部かどうかではなく、その子がどうなのかという意味で、やはり合わない子はいるだろうなとは思います。ただ、学習塾や習いごともうまく使えば居場所になることがあるし、能力を身につけて、使っていくことが自己効力感につながることもあるので、必ずしも悪いものではないと言えると思います。

話したがらない子どもにはどう接する?

――所属感に関するお話がありましたが、家庭における心の安全基地の作り方について伺いたいです。子どもにとって心の安全基地とは具体的にどのような場所を指しますか?

まず、何があっても不可侵である、嫌な人が入ってこない場所であることが大前提です。安全を保障してくれて、無条件の味方である。両親などの大人に対して「この人は何かあっても絶対に私の味方でいてくれる」と思える。それらが保証されている場所ですね。さらには、 自分がそこにいることが認められてる感覚も重要です。

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――加えて伺いたいのですが、家の空間の広さは心の安全基地に関係するものでしょうか?

大きさについて一概には言えませんが、安らげるかどうかは大事な点です。そう考えると、狭くて汚くて、という状況だとむずかしい面があるかもしれません。広さや高さがあるのは開放感につながるので、それは悪いことではないのかなとは思います。

ただ好きな場所は人それぞれなので、広い場所ではなくてトイレやお風呂のように狭い場所でひとりになれることで安心できる子もいます。自分の部屋がない子の場合、もしかしたらお風呂が安全基地になるかもしれない。たとえばそこにお気に入りのシール貼っておくのもいいし、その子にとっての居心地のよさを考えていってあげる必要があるように思います。

――ひとりがいいという子にもやはり親子のコミュニケーションは必要だと思うのですが、保護者は子どもとの家でのやりとりでどんなことを心がけるのがいいでしょうか?

親子でゆっくりとした時間を過ごそうと思ったら、まず親自身に余裕が必要ですよね。みんな「時間がない」と言いがちですが、蓋を開けてみると10分ぐらいスマホを見ていたりすることもあると思います。

GettyImages-2156926673※写真はイメージ(gettyimages/mapo)

だから、自分が何に時間を費やしているか可視化してみるといいのではないでしょうか。

さらには物事の優先順位をつけること。子どもと過ごす時間を優先するとして、そのためには優先順位の低い事柄を省略する必要があります。たとえば食事を毎日必ず自分で作る、毎日必ず掃除機をかけるとしましょう。でも実はこの時間を削ると、子どもとの時間を大事にできるということもあり得ます。いちから料理を作るより、冷凍餃子を買ってきて調理時間を短縮する分、子どもと話す時間を伸ばした方が子どもも嬉しいかもしれないですよね。そうやって少し考えてみると、 ゆっくりする時間が少し延ばせるかなと思います。

――時間を確保できたとして、子どもが心を開いて話せる雰囲気作りがうまく行かないと感じる方もいらっしゃると思うのですが、それについてはいかがでしょう?

たとえば子どもが反抗期の場合、親が何を言っても話したがらないものです。なので親はそれを辛いことだと受け止めすぎないことも大事ですね。子どもの話を聞き出すというよりは、「何かあった時に私たちは絶対にあなたの味方だから」としっかり伝えておくことの方が大事かもしれません。いざという時に、子どもが自分から相談しやすい空気を作っておく。必死に聞き出そうとするよりは、自然にそれができる普段の関わりの方が大事だと思います。

――共働きや母子・父子家庭など保護者が忙しい家庭は、子どもにとっての心の安全基地作りがむずかしいように思ったのですが、工夫できることはありますか?

一緒にいる時間が長ければいいというわけでもなく、時間自体は短くても無償の愛を受け取れている感覚や、存在が否定されていない感覚が得られているかどうかが重要です。量より質です。あと、SNSやメッセージアプリもうまく使えばプラスになります。一緒にいられない時でもオンラインでやり取りして、つながっている感覚が得られれば、子どもの安全基地になることはできると思います。

「SNS=現実」ではないと教える

――SNSに関して、子どもに与える悪い影響も伺えますか?

子どもに対しては悪い面もたくさんあります。SNSは摂食障害などの疾患にも影響があるのではないかと言われていますし、人と比較して自己肯定感が下がってしまうこともあるでしょう。大人であればすごく美しくて痩せた姿が実は加工されたものであること、汚い部屋でも一部のきれいな箇所だけ写せば整理整頓された部屋に見えてしまうことがわかるけど、子どもにはやっぱりわからない。なので、SNSに投稿されていること=現実とは必ずしも言えないことを伝えていく必要があると思います。本当は、年齢によっては監視も必要だと思いますが、子どもの権利もありますし、むずかしい問題です。

――むずかしい中でもどんなことに気を付けるといいでしょうか?

最初の話につながりますが、「あなたは無償の愛を受けるだけの価値があって、受け入れられる人間である」とまずしっかり認めて実感させてあげること、つまり安全基地となることが重要です。他の子よりキラキラしていなくてもいい。誰かとの比較ではなく、その子のいいところをちゃんと伝える。幼少期からの日常のそういった積み重ねが、自己肯定感を育んでいくものだと思います。

あと、SNSに対してはつい批判的な話になってしまいがちですが、子どもにとってSNSがひとつの居場所になっている場合もありますよね。だから、むやみやたらと「SNSは絶対に減らした方がいい!」と決めつけるのではなく、その子にとってSNSは何のためのもので、どう役に立っているのか見極めたうえでコミュニケーションを取ることが大事かなと思います。

KIDSKI STYLEでは、今後も「暮らし」と「子育て」に関する情報を発信していきます。日々の暮らしにお役立てください。

 

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