都会での暮らしは時に大人にとってもストレスの多いものですが、子どもにはどのような影響を与えるのでしょう?...
子どものメンタルが安定する住環境は?精神科医が提案する"心にやさしい"家づくり
毎日過ごす家、どのようなことに気を付ければ子どもにとって居心地のいい空間になるのでしょうか。精神科医の藤野智哉先生に、子どもの健やかな成長によい影響を与える住環境を伺いました。
藤野智哉:精神科医。1991年7月8日生まれ。 秋田大学医学部卒業。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神科病院勤務の傍ら医療刑務所の医師としても務める。著書に『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
孤独を感じにくい住空間って?
――住まいと子どもの発育の関係性について伺っていきたいのですが、子どものメンタルヘルスにとって良い住環境や生活環境を教えていただけますか?
人にもよるので一概に言えないことが多いのですが、たとえば生活環境に関して言えば、日照時間は季節性のうつ病にも関わる因子です。また湿度や気温から算出される不快指数と言う指標がありますが、不快な環境は当然ストレスになります。
――きれいなお部屋の方がメンタルにいい、という関連はありますか?
整理整頓されている方が物をなくしたり不潔な思いをしたりなどの些細なストレスは減りますが、実際には部屋が汚いから必ず不安定になるわけではなく、むしろメンタルが不安定な時に余裕がなくなり部屋が汚くなる人が多いので、それはひとつのサインにはなります。普段は片付けできる人がだんだん片付けできなくなってきたのが、うつ病や認知症の初期のサインだったということもあります。
――日照時間については、窓が広くて光を取り入れやすいと心身にとってポジティブに影響しますか?
そうですね。光は気持ちの安定や安心感をもたらすと言われているセロトニンを作るのに必要です。光がしっかり入ってくることはいいことで、あまりに入ってこないと睡眠リズムやメンタルに悪さをすることもあるかとは思います。
あとは、生活環境で言えば地域の騒音もストレスになりますが、それをストレスと感じるかどうかは人にもよります。
――感じ方には個人差があると思いますが、そもそも音は心にとってどのような存在なのでしょうか?
音は外部からの入力なので、大きさや持続時間などによってストレスになりますが、基本的にコントロールできない外的刺激はすべてストレスになり得るという考え方もあります。
――自宅が安全基地であればメンタルにとってプラスだと思うのですが、その理解は合っていますか?
そうですね。安全基地というものを考えた時に、ストレスがない場所であることが前提です。自分がそこではリラックスしてのびのびできて、不可心な領域であるストレスのない場所が安全基地なので。
――光以外にも、人間誰しもが心に影響を与えられる要素や因子はありますか?
触覚、嗅覚、湿度、気温などからの刺激も当然ストレスになり得ます。風通しのいい家はそういう面でも良いのですが、逆に都会だと排気ガスなどがひどくて窓が開けづらいストレスもあるかもしれません。
――そのほかに、子どものメンタルが安定しやすい住環境の条件はありますか?
安定に効果的な空間の特徴で言うと、孤独を感じないことはひとつ大事な要素だと思います。安全基地というものを考えた時、安心させてくれる人がいるのもひとつの要素です。そう考えると家での孤独や孤立は避けるべきですが、かと言って年齢が上がってもずっとプライバシーがない状況もまた避けるべきです。子どもに部屋を与えるべきかどうかという論争がありますが、このあたりの判断はむずかしいものではあります。
※写真はイメージ(gettyimages/b-bee)
――子どもは家でどんな状況にあると孤独を感じやすいのでしょうか?
人との接点があまりにも少ないと孤独を感じやすいでしょう。自分の部屋にずっとこもって、トイレやお風呂に行くにもリビングを通らなくてよくて、親の部屋とも遠いようだと接点がなくなってしまうので、孤独を感じやすいかなと思います。
基本的にはプライバシーが必要になってくる年齢であれば、子ども部屋があるに越したことはないでしょう。ただ、子どもがその部屋にこもりっきりになるとよくないので、部屋は用意してあげるけど、動線でコミュニケーションは残すのが本当は1番いいのかなとは思いますね。
また物理的には関わりが持てなくても繋がっている感覚を育むことは忘れないでください。いつでも相談できる人が安全地帯にいるだけでも、孤独は軽減されます。
子どもへの質問はオープンクエスチョンで
――家族で団らんしやすい空間には、どのような要素があるでしょうか?
むずかしいのですが、しいて言うなら家族とのかかわりが希薄にならないことが大事なので、そういう方向で考えるのがいいと思います。たとえば食卓に背を向けたところにテレビがあると、テレビを見てる時に家族のことが視界に入らなくなって、その間は会話が絶対に生まれないですよね。だから逆にそういうところから自然に会話が生まれやすい配置にするのはひとつの方法かなと思います。
――子どもとの会話で、コミュニケーションを盛り上げるコツはありますか?
基本的には会話ですが、話すことが何もない時にはオープンクエスチョンがいいでしょう。どういうことかと言うと、「学校で何か嫌なことはなかった?」と聞くと「ない」と返されて終わってしまうけれど、「学校どう?」と聞くと思いがけない話が出てきやすくなり、そこから話が広がることがあります。
――気にしてくれてることがお子さんに伝わるのがいいのかもしれないですね。
子どもに何かを聞いて答えが返ってこない、会話が続かないと親はみんな落ち込みますが、子どもにとっては親に「聞いてくれる準備がある」という感覚を得られるだけで意味があります。「この人は私のことを聞いてくれようとしてる」という感覚を持って帰ってもらうだけで十分なので、その時には答えてくれなくても意味があることです。そういう意味でも、子どもとの接点を増やしておくのは大事なことですね。
KIDSKI STYLEでは、今後も「暮らし」と「子育て」に関する情報を発信していきます。日々の暮らしにお役立てください。